この記事は、以下のような悩みや疑問を持った方に向けて書いています。
- NGOがどんな活動をしているか知りたい
- 将来、国際協力の仕事がしたい
- プロジェクトがどのように計画・実行・評価されるか知りたい
こんにちは、さもあき(@gakisan2)です。
前回のコラム記事では、私が初めてサモアでプロジェクトを構想・計画したプロセスをお見せしました。
構想・計画では、あくまでプロジェクトの大まかな概要や目標を定めた、いわば骨組みを組んだだけに過ぎません。
これを実行可能なものにするには、
「いつ」「どこで」「なにを」「誰と」「どのように」…
といった具体的な活動内容を肉付けし、プロジェクトをデザインする必要があります。
そしてプロジェクトをデザインする方法の一つに、「PDM(Project Design Matrix:プロジェクト・デザイン・マトリックス)」という方法があります。
このPDMは、国際協力の仕事に就く方であればいずれ必ず目にするものですので、ぜひ今のうちから見方を知っておくべきです。
この記事では、以下の内容についてお話していきます。
- PDMの意味
- PDMを用いるメリット
- PDMの作り方
\前回のコラム記事を読んでいない方は、こちらからご覧ください/
経験ゼロから途上国でプロジェクトをつくる方法①【構想・計画編】
PDMとは何か
まずはPDMの意味、そしてPDMを作るメリットについてお話します。
PDMはプロジェクトの設計図
PDMとは、「Project Design Matrix(プロジェクト・デザイン・マトリックス)」の略です。
日本ではPDMと呼ばれることが多いですが、海外ではログ・フレーム(ロジカル・フレームワーク)とも呼ばれることが一般的です。
PDMは、プロジェクト計画の概要が書かれた表であり、「プロジェクトの設計図」と言ってもよいでしょう。
JICAでは、1億円以上のプロジェクトにはPDMの作成が義務付けられています。
将来、JICAや開発コンサルタントとして働きたい方だけでなく
NGO・NPOで国際協力をする場合でも、私のようにJICAや他の援助団体と事業をする機会があるかも知れませんので、知っておいて損はありません。
PDMに書かれている項目
次に、PDMに書かれている項目についてお話します。
下の図は、JICAが使用しているPDMのフォーマットです(図1)。
図1の表の上部は、プロジェクトの基本情報を記入する部分です。
- 事業名(事業実施期間):プロジェクトの名称とその期間
- 事業実施団体名:貴団体の名称
- カウンターパート:プロジェクトを一緒に実施する(技術を伝える)相手国の機関・団体名
- ターゲットグループ:プロジェクトによって恩恵を受ける受益者
表の下部は、プロジェクトの中身の部分(目標や活動内容、指標など)について記入する部分となっています。
- 上位目標:本プロジェクト終了後も成果や効果が継続・発展していくことで、達成すべき中・長期的な目標。
- プロジェクト目標:本プロジェクトが終了した時点で達成すべき目標・効果・影響
- アウトプット:プロジェクト目標が達成するために、プロジェクトが生み出す財・サービス
- 活動:アウトプットを生み出すための具体的な活動・行動
- 外部条件:プロジェクトの成否に影響する可能性のある事柄のうち、自分たちでコントロールできないこと
PDMを作るメリット
プロジェクトを計画する際にPDMを作成することで、以下のようなメリットが得られます。
一方で、デメリットについては、以下のようなものが考えられます。
デメリットというよりは、PDMを作成・使用する際の注意点やPDMの限界について3点挙げました。
ただ、良い事業を実施するためには綿密な計画と想定、そして実施中の適切な軌道修正が必要となります。
したがってプロジェクトを行う際は、PDMに限らず、こういった計画表は絶対に作っておくべきです。
そしてどうせ作るのであれば、日本で広く使われているJICAのPDMのフォーマットで作った方が無難だと考えます。
PDMの作り方
ここからは、私が実施するサモアのプロジェクトで作成したPDMを例に、実際のPDMの作り方を解説していきます。
まずは基本情報から
事業名:サモア独立国初等算数教育における授業研究の実践を通じた協同問題解決授業の展開
事業実施団体名:NGOルマナイサモア
ターゲットグループ:プロジェクト対象校として選出された〇△地区の公立小学校3校の教員約30名、児童約1000名、教育省の〇△地区担当教育視学官と小学校算数教育担当オフィサー
事業名については、<対象国>と<プロジェクトの内容>が分かるようなタイトルにした方がいいようです。
また、ターゲットグループについては、誰が<プロジェクトの受益者>なのかをモレなく書きましょう。
<人数>などの数字を書く方が、プロジェクトのインパクトが伝わりやすいです。
また、PDMは一度作ったら終わりではなく、プロジェクトが始まってからも次々に修正しながら変わっていきます。
そのため、結構ごちゃごちゃになって誤った情報を共有してしまいました(反省)。
このようなことにならないよう、上部に<作成日>や<バージョン数>を必ず記入しておきましょう。
いよいよプロジェクトの心臓部へ
次に、プロジェクトの屋台骨である「プロジェクト要約(Project Summary)」に着手していきます。
まずは、上位目標、プロジェクト目標、アウトプットを考えていきましょう。
上位目標:〇△地区の小学校において、教員が自身の授業を振り返り、改善できるようになる体制が構築される。
プロジェクト目標:〇△地区のプロジェクト対象小学校の教員が、校内で行われる授業研究会を通じて、協同問題解決授業を実践し、その質を向上させていくことで、算数の授業を改善できるようになる。
アウトプット:
1.各教員が、教員研修を通じて協同問題解決授業を理解し、算数の授業において実践されるようになる。
2.タスクフォース教員が中心となって授業研究会を計画・運営できるようになる。
上位目標、プロジェクト目標、アウトプットの3つは、必ず階層構造になっていなければなりません。
したがってPDMを作成する前に、前回のコラムでもお話したロジカルツリーなどで、しっかりと論理構造を作っておかないと、後から大変なことになるようです。
つまり、アウトプットの達成がプロジェクト目標の達成のための必要条件にならなければなりません。
ロジカルツリーで言えば下のような感じです。
図4をみると分かるように、上位目標はプロジェクト目標だけではなく、それ以外の要素も含めて構成されています。
つまり、上位目標はこのプロジェクト終了時に達成する目標ではありません。
しかし上位目標を適切に設定することで、プロジェクトを広い視野でみることができ、プロジェクト評価、終了後の援助のあり方などを考えるのに役立てることができます。
活動は時系列に考えていく
ここまで完成したら、次に活動を考えていきましょう。
図4でも分かるように、活動は各アウトプットごとに考えていく必要があります。
アウトプットが達成されるために、必要なあらゆる活動をここに記入していきます。
アウトプット:
1 各教員が、教員研修を通じて協同問題解決授業を理解し、算数の授業において実践されるようになる。
活動:
1.1 タスクフォースの結成
1.2 タスクフォース研修(協同問題解決授業について)の実施
1.3 タスクフォースによる協同問題解決授業の実践
1.4 タスクフォースによる教員研修(協同問題解決授業)の実施
1.5 各プロジェクト校の巡回及び指導
1.6 〇△地区授業研究報告会の実施
(出典:NGOルマナイサモア)
活動は、プロジェクト開始から終了までを時系列をイメージして考えるのがコツです。
PDMでは大まかな活動しか書いていませんが、実際には1つの活動を行うためにさらに複数の細かな活動(小活動)があります。
そのため、実際にプロジェクトを実施する際は、さらに詳細な活動計画を立てる必要があります。
指標はプロジェクトの判断基準
次に指標を決めていきます。
指標はプロジェクト目標とアウトプットが達成されたかを判断するための基準となります。
これについても私の作ったPDMを例に説明していきます。
アウトプット1の隣の列に書かれた指標は、アウトプット1が達成したかどうかの評価基準となります。
これは同時に、「活動」を実施する上での目標でもあるのです。
つまり、プロジェクトの活動はまずここを目指して進めていく事になります。
また、プロジェクト目標の隣の列に書かれた指標は、プロジェクト自体の成果を評価するための基準になります。
つまり、プロジェクト成功に必要なアウトプットの数値的な基準を表します。
ただ、この指標についてもプロジェクトが進む中で多少の変更や修正が必要になる場合もあります。
他にも、「投入」は実施団体側が用意するものとカウンターパート側が用意するものを明確にするために記入します(図6)。
「外部条件」は、起こる可能性のあるプロジェクトの成果に大きな影響を与えそうな出来事(政治的なこと、自然災害、人事異動、など)を想定して書きます(図7)。
実際にPDMの作成を学ぶ方法
なかなか見るだけではイメージが湧かないという方は、実際にPDMの作成手法を学ぶことをオススメします。
PCM手法研修への参加
PDMを作る手法で1番有名な方法が、PCM(Project Cycle Management:プロジェクト・サイクル・マネジメント)手法です。
このPCM手法を学ぶことができる研修はJICAをはじめ、様々な開発コンサルタント企業が実施しています。
ここでは、JICAが実施する研修について紹介します。
JICA NGO等向け事業マネジメント研修
開発途上国での国際協力活動の経験が浅いNGO・NPO、公益法人、教育機関、自治体等の団体のスタッフを対象に、PCMの考え方を用いて、草の根技術協力事業等を念頭に置いた事業計画の検討ができるようになることを目指す研修。参加費無料。
各地域にあるJICAで毎年実施。高校生や大学生も参加できる場合もあり。
実は私も昨年参加しました!大変勉強になりました。
詳細はこちらからどうぞ
→https://www.jica.go.jp/partner/ngo_support/ngo_pcm/index.html
大学・大学院の講義で
国際開発学や国際関係学を学べる大学や大学院でも、授業の一環でPDMの作成やPCM手法を学べる大学があります。
将来、国際機関やJICA、開発コンサルタントの仕事に就きたい方は、そういった講義を開講している大学に進学し、学ぶこともできます。
さいごに
いかがだったでしょうか?
今回はプロジェクトをデザインする方法であるPDMの作成についてお話ししました。
なかなかコロナでサモアでのプロジェクトが実施できない状況が続いていますが、今後もプロジェクトをスタートさせるまでの裏側をお伝えできればと思います。