現在(2020年5月20日)までに、サモアでコロナウイルスに感染した人数は0人を維持しています。
サモアは、人口20万人の小さな島国ですが、ニュージーランドやオーストラリア、アメリカへの移住者も多く、国をまたいだ人の往来はかなり盛んな国です。
つまり、「遠く小さな国で出入国の数が少ない国」という理由だけでは片づけられません。
サモア政府がコロナ対策を打ち出したのは、なんと1月24日。
サモアに入国する全員に、出国前に医療機関に受診を義務化しました。
この頃の日本はというと、対岸の火事としか捉えておらず、クルーズ船の感染すら起こる前のことでした。
なぜサモア政府はここまで迅速な行動がとれたのか、そしてここまで感染者が0人を維持できたのか。
その大きな理由となった出来事が、昨年に起きた麻疹(はしか)の大流行でした。
人口の約3%が感染した麻疹の流行
2019年9月にニュージーランドやフィジーなどのオセアニア地域で、麻疹が大流行したことをご存知でしょうか?
麻疹の流行はサモアでも発生し、5,700人以上が感染、乳幼児を中心に83名もの命が失われました。
Latest update: 5,697 measles cases have been reported since the outbreak started.
— Government of Samoa (@samoagovt) January 7, 2020
To date, 83 measles related deaths have been recorded. There were 2 fatalities (one infant and one adult) between December 29, 2019 and January 5, 2020.
Full details on: https://t.co/H0svRrRqil
サモアの人口は約20万人なので、人口の約3%が感染した大流行となりました。
すぐさまサモア政府は、2019年11月に無期限の学校閉鎖を実施。
全サモア国民のワクチン接種義務化を発表し、12月には非常事態宣言を発令しました。
さらには「ワクチン接種キャンペーン」を実施し、国民に自宅待機してもらい、予防接種チームがそれぞれの家に訪問するのを待つよう勧告しました。
@samoagovt expands its vaccination age for the Mass Vaccination Campaign 2019.
— Government of Samoa (@samoagovt) December 1, 2019
If you are in Samoa, call 999 on @OfficialDigicel or @blueskysamoa network for more information. pic.twitter.com/hSLS66eZBd
このキャンペーンでは、どの家がワクチン未接種の家庭かを見分けることができるよう、ワクチンを接種していない人がいる家庭には、外に赤い旗を立てるよう推奨されました。
Today, PM Tuilaepa announced the preliminary figures for the Door to Door Mass Vaccination Campaign (only).
— Government of Samoa (@samoagovt) December 5, 2019
•5 Dec – 17,551
•6 Dec (AM) – 3,089
Clarification on collection of above data and full press conference at: https://t.co/qsdplMvaNr pic.twitter.com/ww0qUpY15q
このように、コロナ騒動が起こる3か月前に、サモアはすでに国家の危機に瀕していたのです。
その麻疹がようやく終息したのが、2020年1月でした。
そしてすぐさま届いた中国でのコロナ騒動。
つい最近まで麻疹に苦しめられ多くの犠牲を払ったサモアが感染症に対して危機意識が高かったのは当然ですね。
そのため、まだ近隣のニュージーランドなどでも10人程度しか出ていない状況にも関わらず、すぐさま入国制限の措置を取りました。
つまり、絶妙なタイミングでコロナが発生したことにより、感染を免れたということになります。
ちなみにその後、WHOが3月11日にパンデミック宣言をすることになりますが、
サモアを含む大洋州の9カ国は、2月末の時点で日本からの入国を止めています。
同じ時期に日本からの入国を制限していたのは、たった28カ国でした。
麻疹流行の原因となった第2の伏線
2019年の麻疹流行は、ある意味起こるべくして起こるものだったと言っても過言ではありません。
なぜなら、2018年のサモアでの子どもの麻疹ワクチン接種率がたったの34%だったからです。
しかし、そもそもサモアでは麻疹のワクチンの予防接種プログラムを実施しており、2017年の調査では国民の74%がワクチンを接種していました。
なぜ1年でここまでワクチンの接種率が下がったのでしょうか?
実は、これはある事件がきっかけになっていました。
2018年7月、サモアの病院の看護師がワクチンと誤って、期限切れの筋弛緩剤を子どもに投与してしまい、生後12カ月の赤ちゃん2人が死亡するという事件が発生しました。
この事件で、筋弛緩剤の空瓶を自宅に持ち帰るなどして隠ぺいを図った2人の看護師が過失致死罪により有罪判決を受けました。
これによりサモアの医療体制に対する国民の不信感が大きくなり、サモア政府は予防接種プログラムを停止してしまうことになります。
そして、次の年に起こった麻疹の流行。
前の年にこの事件のせいでワクチンを打たなかった乳幼児が、相次いで被害を受けることになったわけです。
サモアにおける感染症対策の必要性と今後待ち受ける危機
今回の一連の騒動により、サモアをはじめとした大洋州島嶼国の感染症対策の脆弱性が明るみに出ました。
とくにワクチン予防接種の徹底や、感染症が起こったとき医療体制の強化は待ったなしの課題であると言えます。
また、医師や看護師の質・量の改善も急務であると言えるでしょう。
さらには、仮にこのままコロナを乗り越えたとしても、サモアには次なる危機が待ち構えています。
それは、経済です。
サモアだけでなく、オセアニアの島国のほとんどが産業を観光業に大きく依存しています。
今回のように、感染症の流行、またはその対策による国境封鎖は、観光業に大きなダメージを与えます。
コロナの影響はどこの国でも深刻ですが、とりわけ人口規模が小さく、他地域から隔絶され、観光業に依存しているサモアが受ける影響は計り知れないのです。
さいごに
国際協力に興味や関心がある方で、サモアなどの大洋州への支援の必要性を感じている方は少ないと思います。
南の島で平和そう、飢えがない、海もきれいだし、みんな幸せそう、というイメージがありますし(実際そうかもしれません笑)
どうしても国際協力というとアフリカやアジアに目を向けてしまいます。
でも彼らが直面している問題は決して無視できるものではありませんし、
むしろ同じ島国である日本だからこそできる支援がたくさんあります。
この記事が、大洋州の国々に対する支援にも目を向けるきっかけになれば幸いです。