この記事では、次のような悩みや疑問を解決します。
- 太平洋島嶼国が抱える課題が何かよく分からない
- 日本がこれまで太平洋島嶼国にしてきた援助とは
- 日本が太平洋島嶼国を援助する意義が知りたい
「国際協力」や「開発援助」と聞くと、アフリカやアジアの国々をイメージする人が多いのでないでしょうか?
一方でサモアなどの南太平洋に浮かぶ島国のイメージを聞くと、
「のんびり」「平和」「飢えがない」など、ポジティブな回答をいただくことが多いです。
この大洋州の島国(太平洋島嶼国)に対するイメージは概ね当たっているのですが、それでも日本を始め、多くの国からの支援を必要としています。
事実、太平洋島嶼国のほとんどが、世界銀行の定める開発途上国の基準(2016年の人口一人あたりの国民総所得GNIが12,235USドル)を下回っています。
なぜなら、島国だからこその弱点を多く抱えているからです。
太平洋島嶼国の弱点はは大きく次の3つに集約されます。
- 国土の小さく狭い点
- 島間の距離の遠い点
- 周りが海に囲まれている点
この3つの弱点によって、大洋州の島々に暮らす人々は深刻な危機に直面しています。
この記事では、
- 太平洋島嶼国が抱える3つの脆弱性
- 実施されている援助の具体例
- 日本が太平洋島嶼国を支援する意義
についてお話ししていきます。
狭小性による課題
太平洋島嶼国とは主に次のような国があります。
(この記事ではニュージーランドとオーストラリアは含めません)
まずは狭小性による問題について解説していきます。
太平洋島嶼国の狭小性とは
太平洋島嶼国のほとんどは、国土が日本よりも小さいどころか、日本の都道府県レベルの国土しかありません。
日本よりも大きいのはパプアニューギニアくらいです。
ちなみに私のブログでしょっちゅう登場するサモアの国土は東京都の1.3倍しかありません。
この国土の狭さが様々な問題を引き起こしているのです。
廃棄物を処理する土地の限界
国土が狭いことで近年最も課題とされているのが廃棄物処理の問題です。
広大なゴミ処分施設を建設することが難しい上に、近年ゴミの排出量は年々増加しています。
さらにはゴミ処理が十分にできない事で、土壌汚染や海洋汚染を引き起こす原因となり、生態系にも影響を及ぼす可能性があります。
したがって、少ない土地でいかにゴミを処分するか、またごみをリサイクルできるような技術が必要となっています。
経済規模の限界
国土が小さいということは、その国の人口も小さいということ。
したがって、自国だけで産業を発展させにくいという課題もあります。
当然工場を建設したり、そこで雇える従業員の数にも限界があり、島嶼国の産業は長年観光業に依存している状況が続いています。
サモアを例にとると、GDPの約25%を観光業が占めています。(CIAのWorld Fact Bookより)
そこに今回のような新型コロナのパンデミックが起こると、一気に国の産業が立ち行かなくなってしまいます。
また、農業や畜産業を行うための農地も限られているため、食料についても輸入に依存している現状があります。
水の確保
さらには、国土が狭い上に、首都などには人口が集中しているため、水の確保も難しくなることがあります。
そのため乾季などの時期は水不足が起こることがしばしば起こります。
飲料水のほとんどを雨水に頼っているツバルでは、2011年に数ヶ月間雨がほとんど降らず非常事態宣言を発出し,国内の水の使用を制限したことも。(外務省のページより)
また浄水施設などの不足により、雨季には豪雨による水の汚濁や排水も問題となっているのです。
隔絶性・遠隔性による課題
次に、太平洋島嶼国が抱える遠隔性と隔絶性についてお話しします。
太平洋島嶼国の隔絶性・遠隔性とは
大洋州の島国の多くは、たくさんの小さな島によって構成されていることが多く、その島同士の距離が様々な問題を引き起こしています(隔絶性)。
また、島国が外国と貿易などを行うにも、国同士が離れているため、経済活動などにも影響を与えます(遠隔性)。
教育や医療などの社会サービスの限界
多くの島で構成されていることでまず影響を受けているのが、教育や医療などの社会サービスです。
首都がある島で受けるサービスと、首都から離れた島で受けるサービスはどうしても格差が生まれてしまいます。
したがって全国民に平等な教育や医療を提供することが難しいという課題があります。
他国との貿易による物価の影響
また、近隣の国との距離があるために、貿易などを行う際にも様々な問題が生じます。
特に輸出・輸入には多くの燃料費がかかるため、国内の物価はどうしても高くなってしまいます。
上述の通り国土の限界により、食料は他国からの輸入に依存しているため、この問題は避けることができません。
また、逆に自分の国から製品を輸出する際にも燃料費がネックになるため、この遠隔性も産業が発展しない原因の一つと言えるでしょう。
優秀な人材の流出
多くの大洋州の国で人口は増加傾向にあります。
しかし、上で説明した通り、国土には限界があり、産業も発展しないため、国内の雇用も大変少ないのが現状です。
したがって、多くの優秀な人材が職を求めて、ニュージーランドやオーストラリアなどの近隣の先進国へと流出してしまいます。
これによって、ますます国内の産業が発展しないという負のスパイラルに陥っています。
海洋性による課題
続いて、大洋州の島嶼国が抱える海洋性による課題についてお話しします。
太平洋島嶼国の海洋性とは
島嶼国は、その名の通り周りを海に囲まれた島国です。
そのため、特に自然災害や気候変動による影響を受けやすいという脆弱性を抱えています。
海面上昇による影響
海面上昇による国土の消失は一番有名な問題です。
ツバルなどの海抜が低い環礁国(サンゴでできた土地)は、特にその影響を真っ先に受けると言われており、あと数十年で国自体が消滅してしまう恐れもあると言われています。
また、海面上昇は、国土の問題だけでなく、自然災害に対しても脆弱な側面があります。
大洋州地域は10〜3月は雨季と呼ばれ、サイクロンが頻繁に起こる季節です。
海面上昇は、高波などによる人々への被害も大きくしてしまう可能性があるのです。
サイクロンなどの自然災害への対策
今お話ししたように、大洋州の島国にとって、サイクロンはもはや避けることができない問題です。
さらには、活断層や火山も多いため、地震や津波の被害とも常に隣り合わせという状態に晒されています。
一方で、災害時の避難場所などの施設は十分ではありません。
人々に対する防災教育なども十分に行われていません。
したがって、いざ災害が起こったときに、多くの犠牲を払わなければならないリスクにさらされているのです。
実際、サモアでは2009年に地震によって発生した津波で、多くの命が亡くなりました。
私がサモアに協力隊で派遣されたのは2010年だったため、建物が基礎だけを残し跡形もなくなっている様子や、どこが道路だったか分からないくらいえぐられた土地を見て、その脆弱性を目の当たりにしました。
これまでの日本の大洋州への支援
このような多くの問題を抱える太平洋島嶼国に対して、日本は長年多くの支援を行ってきました。
ここではその一部を紹介します。
大洋州地域廃棄物管理改善プロジェクト(J-PRISM)
2011年から実施された廃棄物処理に関する計画策定や人材研修を支援するプロジェクトです。
大洋州地域11カ国の国・地域を対象に、各国の処分場の改善や日本での研修を実施しました。
現在は対象が14カ国に広がり、フェイズ2として更なる強化とともに、3Rの推進やリサイクルが難しい有害廃棄物などを島の外に出す「リターン」の促進に取り組んでいます。
プロジェクトの概要はこちらのJICAのページよりどうぞ
【フィジー・ソロモン】コミュニティ防災能力強化プロジェクト
2010年10月〜2013年10月に実施された自然災害の防災プロジェクトです。
災害対応マニュアルの配備や緊急対応訓練など、災害時における関係機関の連携体制の強化や、
村などのコミュニティにおける、避難路や避難所の整備、避難情報・警報の内容および伝達手段の精度・信頼性の強化を実施しました。
プロジェクトの概要はこちらのJICAのページよりどうぞ
なぜ日本が大洋州を支援する必要があるのか
日本はこれまで大洋州の島嶼国とのつながりを大切にしてきました。
太平洋・島サミット
太平洋・島サミットというものを1997年から3年に一度開催しています。
このサミットは、太平洋島嶼国の首脳を日本に招き、彼らが直面している様々な問題について率直に意見交換を行うものです。
地域の安定と繁栄に貢献するとともに、日本と太平洋島嶼国のパートナーシップを強化することを目的として、これまで8回開催されています。
ちなみに前回の第8回太平洋・島サミット(PALM8)は、2018年5月18日及び19日に福島県いわき市で開催されました。
このように日本と大洋州の島嶼国は、互いに協力関係を築き、信頼関係を構築した歴史があります。
\太平洋・島サミットについて、詳しく知りたい方はこちらの記事もどうぞ/
太平洋・島サミット(PALM)とは|参加国や目的、歴史などを解説
日本が太平洋島嶼国を支援する意義
日本が太平洋島嶼国を支援する意義は、以下の3つが考えられます。
同じ太平洋の島国としての知見
日本と太平洋島嶼国とは「太平洋に浮かぶ島国」という共通点があります。
そのため、お互い同じような課題に直面していることが多いです。
例えば、地震や津波など自然災害に関して同じようなリスクを抱えています。
日本は自然災害大国と言われるほど様々な災害に直面し、それを乗り越えてきました。
そこで日本が培ってきた経験や対策は、太平洋島嶼国にとっても役立つものになり得ます。
外交・安全保障という面から
日本と太平洋島嶼国とのつながりを維持・強化することは、相互の経済活動にとって重要です。
特に太平洋における法の秩序を守り、どの国も自由な貿易ができるような平和と安定を維持することは最も重要なことです。
日本は「自由で開かれたインド太平洋」という戦略を打ち出し、平和な太平洋を守るためのリーダーシップを取ろうとしています。
太平洋の安全を守ることで、日本の支援(インフラ支援や技術支援)を各国の経済活動に最大限に活用できる環境を整えることにつながると考えられています。
また、比較的親日国の多い太平洋島嶼国の支持を維持することは、外交的にも大きな意味を持ちます。
過去には、国連の非常任理事国を決める際の決議で、大洋州の国々が揃って日本に投票したこともありました。
このように、政治的にも日本が大洋州を支援することは意味のあることのようです。
信頼関係の醸成
日本が太平洋島嶼国を支援し始めてから50年以上が経ちます。
そして、日本の援助は、ただ資金を与えたり、建物を建てるだけでなく、「顔の見える援助」にこだわってきました。
つまり、人から人への技術支援です。
よく日本の支援は「魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える」支援と例えられます。
このように人を介してきたからこそ築くことができた信頼関係があります。
そして、現在はこの信頼関係をさらに醸成させる時期です。
私は、近い将来、日本が大洋州の島国から支援を受ける側になると思っています。
経済発展により日本が失ったものを、太平洋島嶼国が守り続けてきたからです。
例えば、コミュニティです。
日本はコミュニティが希薄になったことで、防災、治安維持、助け合いなど、様々な場面で上手くいかなくなっています。
大洋州の国々はコミュニティを大切に守り、育て、コミュニティをもとに国造りを進めてきました。
ここから日本が学ぶべきことは少なくないと私は思っています。
さいごに
いかがだったでしょうか?
今回は、太平洋島嶼国が援助を必要としている理由についてお話ししました。
アフリカやアジアで多くの支援を必要としていることは誰もが知っています。
そして、誰もが知っている問題には多くの人が支援をします。
しかし、その中で本当は支援を必要としているにもかかわらず、誰も知らないということだけで取り残されてしまうような存在を作ってはいけないと思います。
私がサモアや大洋州の島国について発信することは、そういった役割も担っているのだと、
この記事を書いて再認識させられました。