サモア

【考察】映画『モアナと伝説の海』の舞台が「サモア」と言われる理由を解説(ネタバレあり)

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こんにちは、さもあきです。

皆さんは、映画『モアナ』はご覧になりましたか?

ディズニーアニメ初のポリネシア地域が舞台となった作品で、2016年に「モアナと伝説の海」が公開されると、2024年には続編の「モアナと伝説の海2」が公開されました。

主人公モアナが生まれた島や村の生活の様子、ところどころに散りばめられた彼らの独特な文化、映画への没入感を加速されるエキゾチックな音楽、などなど、その世界観に魅了された方も多かったのではないでしょうか。

このモアナの世界観ですが、わたしが映画を見た第一印象は「これ、サモアじゃん!」でした。

事実、映画の中には、村の様子、文化、ストーリー、神話など、明らかにサモアを思わせる場面が山のようにありました。

そこで、今回はサモアに在住経験がある筆者が映画「モアナ」に隠された「サモア」を徹底解説していきたいと思います。

この記事を読むことで、ポリネシアやサモアの文化や歴史と映画の繋がり、物語の背景に隠された意味を知ることができ、より深く「モアナ」を理解することができます。

そして、きっと「もう一度モアナを見たい!」と思うはずです!

この記事では、以下の内容についてお話します。

  • 映画モアナの舞台は?
  • モアナのストーリーは実在した話?
  • モアナからみるサモア文化との共通点は?
  • モアナの世界を体験できる場所?

映画「モアナ」の舞台は〇〇!

「モアナと伝説の海」と「モアナと伝説の海2」、この2つの映画の舞台は「ポリネシアの架空の島」であり、これは公式であるディズニーも公言している事実です。

ポリネシアとは、サモアを含む、ハワイ、タヒチ、トンガなどの国々や島を含む太平洋の中の地域を指します。

出典:Wikipediaより

したがって、モアナの舞台がサモアと非常に近いと言われていることについても、納得ができます。

また、「モアナ」という名前は、サモア語を始めとした多くのポリネシア地域の国の言葉で「海」を意味します。

さらに興味深いのが、このモアナの物語は、実際にあったポリネシアの歴史が元となったお話だということです。

ポリネシアの失われた1000年「ロングポーズ」が物語のカギ

まずおさらいですが、映画「モアナと伝説の海」は、美しい海に選ばれ愛された少女モアナが、盗まれた女神の〈心〉を取り戻し、世界に平和をもたらす冒険の物語です。

伝説の英雄マウイと出会い、様々な苦難を乗り越えながら自分の道を切り拓いていく姿が、多くの人の共感を呼びました。

その続編である「モアナと伝説の海2」では、成長したモアナがすべての海をつなぐ「導く者」となり、人間を憎み世界を引き裂いた「嵐の神」の呪いを解くため、再びマウイや新たな仲間と共に新たな航海へと旅立ちます。

この物語の元となっているのが、ポリネシアの失われた1000年と言われる「ロングポーズ」という時代だとされています。

約3000年前、ポリネシア人の祖先であるラピタ人たちは、東南アジアから太平洋に進出し、フィジー・サモア・トンガといった西ポリネシアの島々に定住しました。

しかし、その後なぜか約1000年もの間、さらなる東方への航海が止まってしまいます。この長い停滞期を「ロング・ポーズ」と呼びます。

『モアナと伝説の海』の物語は、この航海が途絶えた時代を象徴するような設定から始まります。

モアナの村では海に出ることが禁じられ、かつて偉大な航海者だった人々(=村人) は、海とのつながりを忘れかけているようでしたね。

そんな中で主人公のモアナが海へと旅立つ姿は、まさに“失われた航海の記憶”を取り戻す物語と重なります。

そして続編では、航海者としての誇りを取り戻したモアナが、さらなる冒険へと乗り出しました。

ロング・ポーズの終焉、すなわちポリネシア人たちが再び東へと航海を再開し、ハワイやニュージーランド、イースター島へと広がっていった「大航海時代」の始まりをなぞっているとも言われています。

ロングポーズの後、祖先たちはポリネシア航海文化の中心であったサモアから星や風を頼りに海を越え、島から島へと進んでいったのです。

「モアナと伝説の海2」の中でモアナが使う航海の技術―手を使いながら星の位置を読み、波の形を分析し、風向きを見極めながら目的地へ向かう―これはフィクションではなく、実際にポリネシアの航海者たちが行っていた“ウェイファインディング”と呼ばれる伝統的な航海術そのもの。

地図もコンパスも使わず、自然のサインだけを頼りに何千キロも旅をするという、その技術と知恵は、世界的にも非常に高度なものとされています。

このときモアナが乗っている船も、この時代に主に使われていたダブルハルカヌーと呼ばれる船と非常によく似ています。

長いロング・ポーズの時代を経て、再び海に出たポリネシアの人々。勇敢な少女が村を守るため航海に出る、ただそれだけのお話ではなく、彼らの勇敢な航海の歴史が、描かれていたのです。

人気キャラクターのマウイもポリネシア神話がモチーフ

「モアナと伝説の海」に登場する人気キャラクターの一人にマウイがいます。

彼は、半神半人の伝説的な英雄で、巨大な釣り針を使って姿を動物に変える魔法の力を持ち、人間たちに火や島、大地を与えたと語られています。

しかし過去の過ちから力を失い、心に傷を抱えています。物語ではモアナと共に冒険し、自分の本当の価値に気づいていきます。勇敢で陽気ですが、少し自信過剰な一面もあるキャラクターです。

このマウイも、実在するポリネシア神話の英雄をモデルにしたキャラクターと言われています。

マウイはハワイ、マオリ、サモアなどポリネシア全域に語り継がれる「半神半人(demigod)」であり、人々に火をもたらし、太陽の動きを遅らせ、釣り針で島を海から引き上げたとされる、「すごい」英雄として知られています。

特に有名なのが、マウイが使う魔法の釣り針「マナイア・カラニ(Manaiakalani)」です。

この釣り針は単なる道具ではなく、自然を操る力を宿した神聖な道具とされており、神話の中では島々を海底から引き上げるときに使われたと語られています。映画中でも、マウイの力の象徴として描かれていましたよね。

この釣り針は実際に動物の骨や歯、貝などの天然素材から作られ、家族や部族の男性に代々受け継がれてきました。

その形には魔除けや成功の意味が込められていて、ネックレスとして身に着けることで力と守護を得られると信じられているので、私もこれを着けているサモア人をよく見かけます。

映画の中でもマウイやモアナのお父さんがネックレスとして着けていましたね。

サモア文化から紐解く『モアナ』の世界

さて、ここからは、実際に映画の中でたくさん描写されているサモアの文化について紹介したいと思います。

サモアは現在でも伝統的な文化が数多く残る、ポリネシア地域でも稀有な国で、サモア在住経験のある私も「これこれ!」と映画を見ながらとても嬉しくなりました。

ぜひ映画のシーンを思い出しながら読んでみてください。

サモアの伝統的なタトゥー「ペア(Pe’a)」と「マル(Malu)」

モアナのお父さんの身体に描かれたタトゥーは、サモアの男性が成人の儀式として受ける「ペア(Pe’a)」を彷彿とさせます。

​ペアは、腰から膝までを覆う濃密な黒い模様で描かれ、勇気や社会的地位、家族への献身を象徴します。

一方、サモアの女性が入れる「マル(Malu)」は、膝の下から太もも上部までを覆う繊細な模様で、女性らしさや社会的責任、精神的な強さを表します。​

最近では脚だけでなく手に彫る女性も多く、映画では、モアナのお母さんの手にこれが描かれていました。

サモアのタトゥーについては、以下の記事で詳しく解説していますのでそちらも是非ご覧ください。

モアナの伝統的な家屋「ファレ(Fale)」

モアナが暮らすモトゥヌイ村の特徴的な建物を皆さん覚えていますか?

実はこの建物は、サモアの伝統的な住居「ファレ(Fale)」の特徴が色濃く表れています。
円形で開放的なこのファレという建物には壁がなく、柱と屋根だけで構成されています。

なぜこのような建てられ方なのかというのは、気候が関係しているなど様々な理由がありますが、その中でも「サモアは村の中での隣人どうしの結びつきが強いため、誰が訪問してきてもすぐに歓迎し迎え入れるため」という説は、とってもサモアらしい理由ですね。

映画中でも、村人たちの家族はそれぞれ別々に生活しているというより、一緒になって共同生活をしているような描かれ方をしていたように思います。

このファレにも色々と種類があり、映画の中でも島の家族が住む家としての小さなファレや、村のセレモニーに使われる建物としての大きなファレが描かれました。

下の写真は私が最近訪れたサモア国立大学キャンパス内にあるファレです。

サモアの伝統的な家屋「ファレ」についてもっと知りたい方は以下の記事も読んでみてください!

サモアの伝統的な調理法「ウム(Umu)」

「モアナと伝説の海」の映画の中で、村人たちが地面に石を並べて料理をしているシーンがありますが、覚えていますか?
これは、サモアの伝統的な調理法「ウム(Umu)」を描いたものです。

ウムは、地面の上に火で熱した石を並べ、その上に食材を置き、バナナの葉などで覆って蒸し焼きにする調理法です。魚や豚肉、鶏肉、タロイモ、青いバナナなどが使われ、ココナッツクリームで風味を加えます。

中でも「パルサミ」と呼ばれる、タロイモの葉でココナッツミルクと玉ねぎを包んだ料理は、ウムの定番です。

パルサミはクセがなく、シチューのような滑らかな味わいで、外国人にも大人気のサモア料理です。

私も時々ランチに食べますが、これをツナ缶とタロイモと一緒に食べるのがとても美味しいです。

また、このウムという調理法は、伝統的に男性が調理をするという特徴があります。

一般的に日曜日に朝早くからウムを準備し、教会に行った後に家族でこのご馳走を食べるのが、サモア人の家族の典型的な日曜日の過ごし方です。

サモアの家族のあり方 ー家族観とマタイ制度ー

モアナの映画では、家族の絆が物語の中心に描かれています。

モアナは両親、妹、そして特に祖母との深い関係の中で成長していきますよね。

このように複数世代が助け合いながら暮らす様子は、ポリネシア社会における「拡大家族(エクステンデッド・ファミリー)」の文化をよく表しています。

家族は血のつながりだけでなく、村全体の人々との結びつきをも含んだ、大きな意味を持つ存在です。

さらに、モアナの父が村のリーダーを務めているように、サモアには「マタイ制度」という独特の仕組みがあります。

マタイとは、家族の代表としてコミュニティをまとめる存在で、土地や伝統を守る大切な役割を担います。日本語で言う「村長」のような役割です。

年齢や性別よりも、その人がどれだけコミュニティに信頼され、リーダーとしてふさわしいかが重視されます。

「モアナと伝説の海」の物語の終盤で、ファレのような建物の中で、モアナのためにセレモニーが行われているシーンがありましたね。

これはサモアでマタイの称号を受け取る際に開かれるセレモニー(Saofa’i)と非常に似ています。

マタイは家族や村のリーダーとして認められたものだけが受け取る称号なので、モアナが先祖を想いながら、島を勇敢に外の世界と繋げたことが評価されたのでしょう。

あなたもモアナの世界を体験してみませんか?

この記事を読んで、モアナの世界を味わってみたい!と思った方は、ぜひサモアを訪れてみていただきたいです。

ここで、サモア国内で「モアナ」を実感できる場所を紹介したいと思います。

Samoa Cultural Village

サモアの首都アピアには、サモア文化村(Samoa Caltural Village)があります。

モアナの映画のような食べ物や文化を実際に体験することができます。

Polynesian Cultural Center 

  • 営業時間:月・火・木・金・土(12:00pm – 21:00pm)
  • 定休日:水・日・祝日
  • 入場料:大人(12歳〜)94.95USD〜(約14,000円〜)、小人(4〜11歳)75.96USD〜(11,000円〜)
  • 支払方法:現金、カード
  • 住所:55-370 Kamehameha Hwy, Laie, HI 96762 アメリカ合衆国
  • ホームページ:https://polynesia.jp/

もしサモアまで来るのは遠くてむずかしい、、という方がいれば、是非日本から直行便の出ているハワイでも体験できる場所があります。

オアフ島にある、Polyneisan Cultural Centerというところでは、ポリネシアの一部であるハワイの文化はもちろん、「Island Villages & Activities」という国・島ごとに分けられたエリアでサモアの文化も体験できます。

中でも、「サモア村」での文化体験やショーは必見です!

「モアナ」の感想をサモア人に聞いてみた!

映画「モアナと伝説の海」は、サモアでも上映され、実際にサモアで唯一の小さな映画館では「モアナ」が上映中は連日大盛況でした。

実際に映画「モアナ」を見た感想をサモア人の友人に聞いてみましたので、ご覧ください。

Q1: 映画のどのシーンが特に印象に残りましたか?

モアナが一人で海に出るシーン。祖母に背中を押される場面が感動しました。サモアでも祖父母はすごく大事な存在だから、自分の家族に重ね合わせて見ました。

Q2: 映画の中で描かれたサモア文化で、特にリアルだと感じた部分は?

家族や村のつながりです。モトゥヌイの村では、みんなが近くに住んでいて、子どもたちは自由に行き来して、大人たちはそれぞれの役割を持っています。サモアの村もまさにそんな感じです。子どもを家族全体、村全体で育てるという文化です。

また、音楽と踊りも、一つ一つの動きや音楽のリズムがサモアのものにとても近かったです。
モアナがチーフ(村長)になるセレモニーもサモアで行うものにすごく近くてリアルでした。

Q3: 自分たちの文化が世界中に伝わることをどう思いますか?

すごく誇りに思います。サモアの文化は小さい島国だからあまり知られてないけど、モアナを通して世界に今までも知られるようになるのはすごく嬉しいです。

あまりスポットライトが当たることがないので、これを機会にもっとたくさんの人にサモアやポリネシアについて興味を持ってほしいと思いました。

モアナはポリネシアの架空の島という設定だから、サモアだけじゃなくてハワイやタヒチの文化などもミックスされていて、複雑に思う人もいるかもしれないけど、個人的にはそれも見ていて面白かったです。

さいごに

いかがでしたか?

モアナの盛り上がりは、世界的にも非常に大きなものでしたが、実際にポリネシアやサモアの歴史や文化と重ね合わせて見ていた人は少なかったのではないでしょうか。

これを機に是非モアナの映画をもう一度見て、サモアやポリネシアの文化を知ると同時に、「モアナ」をもっと深く理解して、「そういうことだったんだ!」と思ってもらえれば嬉しいです。

モアナの世界が体験したくなった方は、是非実際にサモアに訪れてみてくださいね。

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さもあき

国際協力NGOルマナイサモア所属
サモアを愛する国際協力師
2020年7月よりサモアで算数・数学教育の新たなプロジェクトをスタート予定。「教育で人と世界をつなぐ」をモットーにサモアと日本の学校をつなぐプロジェクト進行中。ライターとして教育・国際協力の記事も執筆。

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