国際協力

【NGOの登竜門】JICA草の根技術協力事業とは|応募から実施までのプロセスを解説

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この記事は、次のような悩みや疑問を解決します。

  • 国際協力団体がどのような制度を使って事業を行っているか知りたい
  • NGO団体が受けられるJICAの支援制度を知りたい
  • 草の根技術協力事業を知っているが、詳しくはよく分からない

私が所属しているNGO団体ルマナイサモアで昨年、JICAの草の根技術協力事業という制度を利用し、団体として初となるサモアの教育分野の大きなプロジェクトを開始するチャンスを頂きました。

設立して間もない団体にとって、事業を実施する上でまず壁になるのが活動資金の捻出です。

しかし、私たちのように歴史の浅い小さな団体にも、サポートしてくれる制度がいくつかあります。

その一つがJICA草の根技術協力事業です。

今回は、私が昨年この制度に応募し、採択を受けるまでのプロセスをまとめました。

これから本格的に団体を立ち上げ、大きな事業を実施したいと思っている方にとって、参考になれば幸いです。

\NGOについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。/

【国際協力団体の設立】NGOとNPOの違いとは?一般社団法人も解説

JICA草の根技術協力事業とは

JICA草の根技術協力事業とは、日本の国際協力団体が自分たちのもつ知見や経験に基づいて事業を提案できる制度です。

まずはこの制度の概要について説明します。

対象となる団体、国、分野

この事業の対象となる団体は、活動実績が2年以上ある日本のNGO団体(任意団体でも可)、大学、地方自治体、公益法人、民間企業などです。

事業を行う対象となる国は、JICAの在外事務所がある91カ国(2019年10月現在)に限られます。

対象となる国について詳しく知りたい方はJICAのページをご覧ください(←クリックするとご覧いただけます)

対象となる分野は特にありませんが、募集要項には以下のような例が挙げられています。

・コミュニティ開発:農・山・漁村等の開発を含む
・防災の主流化:災害に強いコミュニティづくり等
・脆弱性の高い人々への支援:児童・障害者・高齢者・難民等
・ジェンダーの主流化:ジェンダーの平等を目指したエンパワメント等
・保健医療:地域保健、母子保健、公衆衛生、栄養改善(農業・食糧分野からの取り組みを含む)、プライマリヘルスケア、リプロダクティブヘルス、HIV/AIDS、ユニバーサルヘルスカバレッジ等
・生計向上:伝統産業振興、住民組織化等
・人材育成:教員養成、識字教育、ノンフォーマル教育、初等教育環境改善、職業訓練等
・自然資源の持続的利用:荒廃地回復、森林・水産資源管理等

草の根技術協力事業募集要項

採択のための重要な視点

JICAの草の根技術協力事業では、3つの重要な視点というものを示しています。

① 日本の団体が主体的に行う人を介した「技術協力」であること

② 開発途上国の地域住民の生活改善・生計向上に裨益する事業であること

③ 日本の市民の国際協力への理解・参加を促す機会となること

草の根技術協力事業募集要項

つまり、ここで実施する事業は、資金協力などのお金やモノの供与ではなく、現地の人々との協働で行う技術移転であり、

その国のニーズに沿った課題を解決することで人々の生活が向上しうるものであり、

その活動を通して日本への貢献も期待できるような事業でなければならないということです。

したがって、上で記述した対象に当てはまっていたとしても、この3つの重要な視点が欠けていると、採択されない可能性があります。

事業の実施方法

JICAの草の根技術協力事業は、一般的な補助金や助成金と違い、JICAが団体に対して業務を委託する形で契約を結びます。

また、業務が完了が確認された時点で、契約金額を受け取ることができます。

さらに、事業実施中もJICAへの報告書の提出や事業評価が義務付けられています。

3つの事業形態

草の根技術協力事業には3つの事業形態があり、形態によって応募条件や契約金額、事業期間が異なります。

① 草の根協力支援型
活動実績が少ないNGO等の団体を対象としており、事業規模の上限は1000万円、事業期間は3年間。

② 草の根パートナー型
開発途上国・地域への支援活動実績が2年以上あり、法人格を有する団体を対象。事業規模の上限は1億円、事業期間は5年間。

③ 地域提案型/地域(経済)活性化特別枠
地方自治体または地方自治体が推薦する団体を対象としており、事業規模の上限は6000万円、事業期間は3年間。

私が所属するNGOルマナイサモアで採択を頂いたのは、「①草の根協力支援型」です。

基本的な方針としては、まずは支援型で実績を積み、パートナー型へとステップアップする流れが一般的のようです。

応募から採択までのプロセス

次に、実際に私が採択を受けた「草の根協力支援型」への応募から採択までのプロセスを説明していきます。

応募時期について

草の根技術協力事業の応募時期は、7月と12月の年2回です。

応募までに必要なこと

応募にあたっては、以下の3つが必要となります。

  1. 対象地域、解決したい課題(ニーズ)、事業プランを明確に
  2. JICA国内拠点でコンサルテーションを受ける
  3. 必要書類の作成

対象国、解決したい課題(ニーズ)、事業プランを明確に

まずは団体として、どの国・地域にどのような課題(ニーズ)があり、どのような事業プランを考えているのかをある程度考えておく必要があります。

対象国は決まっていたとしても支援型の予算規模で全国的に出来ないのであれば、対象地域を絞る必要があります。

また、どのような課題があるのかも明確にしておく必要があります。これらについては、場合によっては現地に実際に出向き、調査などする必要があるかもしれません。

また、事業プランに関しては、自分たちにどんな強みがあるか、それを最大限生かせるような事業内容にする必要があります。

JICA国内拠点でコンサルテーションを受ける

コンサルテーションに関しては応募の必須条件となっています。

上記の事業プランをもって、団体の所在地から近いJICAの国内拠点に事前に連絡をし、相談に行ってください。

JICAの国内拠点について詳しく知りたい方はJICAのページをご覧ください(←クリックするとご覧いただけます)

また、事業プランなどが明確でない場合も、コンサルテーションの際に丁寧に相談に乗ってくれますので、安心してください。

私の場合は、本当に何度もJICAに足を運びました。

そのたびに親切・丁寧に相談に乗っていただき、そのおかげで事業計画書を作ることができたと思っています。

私のような経験の浅い団体は、なるべく早くJICAに相談し一緒に計画していくことをおすすめします。

必要書類の作成

応募書類として求められるものは以下の通りです。

  • 事業提案書
  • 事業の実施スケジュール
  • 提案事業経費の概算
  • 提案団体・相手国実施機関の概要
  • 事業提案書要約
  • その他資格審査に必要な書類(定款、過去2年の事業報告書・収支報告書、納税証明書、誓約書など)

事業提案書は、事業名からはじまり、具体的な事業目標と活動内容、指標(評価方法)、対象国の状況・課題などA4用紙7枚以内で作成する必要があります。

事業提案書は事業の根幹となるものであるため、かなり完成には時間を要します。

事業の実施スケジュールは、その名の通り事業のスケジュールを行う活動ごとに時系列の表に示し、実際にこのスケジュールに沿って事業を進めていきます。

他にも、経費の概算や相手国実施機関などの詳細を記入する必要があるため、事前に相手国と連絡を取り合う必要もあるかもしれません。

また、資格審査に必要な書類についても、とくに任意団体の場合はしっかりと詰めておく必要があるでしょう。

採択から実施までのプロセス

次に、草の根技術協力事業に採択を受け、実際に開始するまでのプロセスについて紹介します。

審査から採択までは約3か月

応募したあとは、最終的な採択が決定するまで約3か月を要します。

まずは、草の根技術協力事業を実施する団体に資するかどうかを審査する資格審査があり、その結果が約1カ月程度で通知されます。

そこで通過した場合、次の事業提案書の審査に移り、JICA本部による審査が行われます。

それにも合格した団体のみが採択を受けることができます。

採択から1年以内に実施

晴れて採択をうけると、そこから1年以内に事業を開始しなければなりません。

開始までには以下のようなステップを踏むことになります。

  1. 相手国と結ぶ合意文書(M/M)の作成
  2. 実際に現地に行き、相手国の機関と合意文書を締結する
  3. その後、JICAとの本契約を結ぶ
  4. スケジュールに則って事業開始

ステップ1~3までは最短でも半年程度かかることが多いようです。

したがって、採択後すぐに実施できるというわけではありませんので、ご注意ください。

応募から数えても、事業開始まで最低1年はかかります。

開始までに様々なサポートも

ただ今思えば、私たちのような支援型を実施する経験の浅い団体にとっては、一つの事業を開始するまでにこのくらいの準備期間があった方がよかったと思っています。

また、JICAも事業開始までに様々な研修やセミナーを準備しているため、事業をより効果的に進めるための知識や技術も身につけることができます。

以下は、私が実施までに受講したJICAの研修の例です。

  • 事業マネジメント研修
  • 経理処理についての研修
  • NGO等向け現地調査実践研修
  • 事業計画のブラッシュアップのための研修

JICA草の根技術協力事業のメリット・デメリット

現在私の団体は、採択を受けて事業開始を待っている状態です。

実際に実施してみて色々と考えが変わる部分が出てくるかもしれませんが、いまの時点で感じているメリットとデメリットをお伝えしたいと思います。

メリット
  • 事業実施前から事業終了まで、JICAのコンサルテーションや実施監理のためのサポートを受けることができる
  • 途上国での事業におけるJICAの経験やノウハウを活用することができる
  • 事業のためのまとまった予算を獲得できる
  • 現地政府とのスムーズな交渉や事業のインパクトの波及効果が期待できる
デメリット
  • 実施までに時間がかかる
  • 予算の使用範囲や金額に制限がある
  • 実施中も報告書の書類提出などの事務処理が多い
  • 不測の事態が起こったときに事業がストップしてしまう

メリットに関しては、とくにJICAのサポートを常に受けることができる点は、経験の浅い小さな団体には大変ありがたいことです。

また、団体設立当初はファンドレイジングなどで資金を獲得するのが中々難しいなか、草の根の制度でまとまった金額を獲得できるだけでなく、その資金で事業を実施することで団体としての実績も作れるため、団体の活動を軌道に乗せることができるチャンスにもなります。

一方でデメリットで挙げた部分は、ODAを活用する事業ということもあり、様々な報告や提出を求められ、その審査に時間がかかるのは致し方ない部分かもしれません。

また、デメリットで最後に挙げた「不測の事態」は、今まさに新型コロナによって影響を受けてしまっています。

現在、現地への渡航はJICAの判断で不可となっているため、実施団体はその判断に従う必要があります。

これから応募をお考えの方は、このあたりのデメリットも踏まえたうえで応募してください。

さいごに

いかがだったでしょうか?

今回は、JICAの草の根技術協力事業について解説しました。

日本の国際協力はJICAを中心に行われていますが、一方でNGOなどの草の根レベルで活動してきた団体にしかない知見や経験があるのも事実です。

また、NGOだからこそ発見できる現地のニーズや、現場における対応力や機動力の高さは、現在行われている国際協力をさらに効果的にしていくものだと思います。

世界的に見ても、国際協力の分野におけるNGOの影響力はどんどん大きくなっており、日本も今後NGOを中心とした国際協力がさらに拡大していくのではないでしょうか。

そのようなポテンシャルを持った団体は日本にたくさんあります。こういった団体を支援してくれるJICA草の技術協力事業が今後も続き、さらに拡大していくことを願っています。

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さもあき

国際協力NGOルマナイサモア所属
サモアを愛する国際協力師
2020年7月よりサモアで算数・数学教育の新たなプロジェクトをスタート予定。「教育で人と世界をつなぐ」をモットーにサモアと日本の学校をつなぐプロジェクト進行中。ライターとして教育・国際協力の記事も執筆。

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