この記事では、次のような悩みを解決します。
- 最近増えた外国人労働者がどんな制度で日本に来ているか知りたい
- 日本語教師になりたいけど、どういう学習者に教えるのか知りたい
- 日本語教育能力検定試験に出るポイントが知りたい
近年、日本をに仕事を求めて訪れる外国人の数が急激に増加しています。
その多くが利用している制度が外国人技能実習制度です。
しかし技能実習生としてやってくる人々が大変な借金を背負わされて働いているのを知っていますか?
また、日本語教師になりたい方にとっては、彼らがあなたの学習者になるかもしれません。効果的な指導行うために、彼らの置かれた現状を知ることは大切です。
私自身、日本語教室のボランティアをしているときにも、技能実習生の学習者さんに指導していました。
この記事では、私が実際に日本語教室の中で技能実習生から見聞きした情報も踏まえながら、
- 外国人技能実習制度とは何か
- 技能実習生が日本に来て働くまでのプロセス
- 技能実習制度が抱える問題点
について解説していきます。
外国人技能実習制度とは
外国人技能実習制度とは、外国人が「技能実習」という正式な在留資格で日本に滞在し、給料をもらいながら技能実習をとおして専門技術を身につけるための制度です。
開発途上国の「人づくり」として
この制度が初めて制度化されたのが1993年。当初は、開発途上国の支援が目的でした。
技能実習制度の目的・趣旨は、我が国で培われた技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進です。
国際人材協力機構(JITCO)のHPより
少子高齢化の救世主としても
現在も国際協力の推進という目的はありますが、近年は日本の問題解決にも貢献しています。
2018年のマンパワーグループの調査によると、
日本では経営者の89%が人材不足を感じている。
マンパワーグループの2018年調査より
と答えており、人材不足が日本では重要な問題となっています。
したがって、日本の少子高齢化による労働力不足問題の解決策としても、外国人技能実習制度は期待されているわけです。
技能実習制度の仕組み
技能実習制度では、外国人の技能実習生が、日本の企業や個人事業主との間で雇用契約を結び、技能の修得を目指していきます。
技能実習生は、いくつかの条件を満たすことで、最大5年間日本に滞在することが可能です。
(この条件については次の章で詳しく解説します!)
日本で働く技能実習生は41万972人
2020年3月末に法務省が公表した統計によると、
「技能実習」の在留資格を持つ外国人の人数は、410,972人(前年から25.2%増)で、過去最多でした。
技能実習生が働くことができる職種や作業は定められていて、82職種146作業にものぼります。
(参考資料:外国人技能実習機構HP「技能実習制度 移行対象職種・作業一覧」)
これには農業、建設、漁業、食品製造、繊維・衣服、塗装、溶接、自動車整備、介護、ビルクリーニング、宿泊などが含まれます。
とても幅広い職種や作業があり、もうすでに日本の産業が外国人に支えられていることが分かりますよね。
また、技能実習生を受入国別にみると、
1位がベトナム、2位が中国、3位がフィリピンとなっています。(日本語教師の試験に出ます!)
外国人が技能実習生として働くまでの流れ
外国人が技能実習生として働くまでの流れは、以下の7つのステップで説明することが出来ます。
- 現地で技能実習生の募集に応募する
- 現地で研修を受ける
- 日本に渡航し、直前講習を受ける
- 技能実習が開始(まずは1年契約)
- 「基礎級」技能検定に合格で2年延長(不合格の場合、帰国)
- 「随時3級」技能検定に合格でさらに2年延長(不合格の場合、帰国)
- 「随時2級」技能検定に合格すれば、最長で5年目まで滞在可能。
以下でそれぞれ詳しく説明していきます。
現地の技能実習生の募集に応募する
実習生の母国には、人員を募集して日本に派遣する送出機関と呼ばれる組織があり、日本企業からの募集条件や希望にマッチした人材を選抜していきます。
この送出機関は日本とその国の政府によって認定を受けた組織でなければなりません。
現地で研修を受ける
実習生として採用が決定した後は、日本入国までの間に現地でトレーニングを受けます。
主に、現地の日本語学校等で日本語教育などの研修を受けることが多いですが、受入企業の業種や職種に合わせた研修を行う場合もあるようです。
日本に渡航し、直前講習を受ける
在留資格とビザの発給を受け、日本に入国した後は、日本の監理団体によって直前講習が行われます。
講習では、受入企業での実習がスムーズに入れるよう、日本での生活のルールや知識などを習得します。
入国前に行った講習時間数にもよりますが、原則2か月以上の講習を受けることになります。
なお、この監理団体は営利を目的としてはいけないため、商工会議所や農業・漁業組合、公益社団法人、職業訓練法人など機関が担っています。
技能実習が開始(まずは1年契約)
直前講習が終わると、いよいよ受入企業との雇用契約が結ばれ、労働基準法に沿って技能実習が始まります。
なお、ほとんどのケースで直前講習の後に雇用契約を結ぶため、講習中に業務を負わせることは禁止されています。(試験に出ます!)
技能実習が始まってからのスケジュール
技能実習が始まると、以下のスケジュールで進んでいくことになります。
最初の1年は「技能実習1号」と呼ばれていて、この期間に「基礎級」技能検定という実技と学科試験の検定に合格しなければ、1年で帰国となってしまいます。
ただし「基礎級」に合格すれば、在留期間が2年延長されます。
また、次の2年の間にも「随時3級」技能検定があり、合格すればさらに2年延長されます。
さらに、最後の2年間(4~5年目)でも「随時2級」技能検定に合格する必要があり、すべての条件を満たすことで最長5年間日本に在留できることになります。(試験に出る!)
在留資格「特定技能」へのステップアップも
2019 年 4 月 1 日より新しい在留資格「特定技能」が制度化され、「技能実習 2 号」を修了した外国人は、「特定技能 1 号」へ移行できるようになりました。
その際、在留資格取得に必要な日本語能力や技術水準に関わる試験などを免除されるなどの優遇措置も用意されています。
現在、「特定技能」で受け入れることが出来る分野は、介護、建設、自動車整備、農業、漁業、外食業など14分野あり、
さらに、熟練した技能や日本語能力が高い人材は「特定技能2号」の取得が可能となり、在留期間が無制限になったり、家族を随伴出来たりと、かなり優遇されていますが、今のところ志願者がかなり少ないようです。(試験に出ます!)
技能実習制度の問題点
一見すると、労働力を必要とする日本と雇用が不足している開発途上国、お互いに得をするwin-winな制度のように見えますが、この制度には多くの問題点があります。
多額の借金を背負って来日する実習生
実習生が母国で技能実習生として応募する際、現地の送出機関に多額の手数料を支払う必要があります。
国外に出てまで仕事を得たいと思う人たちなので、その多くは十分なお金をもっておらず、多額の借金をして日本に来ているケースがほとんどです。
また、政府から認可を受けている送出機関も結局のところ営利企業であり、たくさんの労働力を送ることでお金を生み出すビジネスになっているのです。
事実、労働者に借金をさせて労働力として輸出しているこの制度は、ある意味で人身売買や奴隷の仕組みと大差がないようにも見えます。
人権を無視した労働環境
借金をしてまで日本に来て、ようやく受入企業での実習が始まったとしても、さらに困難が続くケースが報告されています。
それが実習生の労働環境です。
あるベトナム人女性のケースでは、完全に人権を無視した労働環境に置かれていたようです。
仕事は午前7時半に始まり、終わるのは夜10時。それからトイレ掃除をし、部屋に戻る。そして部屋の片づけをしてから、入浴。その後、夕飯を作り、食事をとる。一息つけるのは夜12時すぎだった。それから寝て、朝になるとすぐに仕事という日々だった。休みは多くて月に2日だけ。まったく休みがない月もあった。(中略)
寮は工場と同じ建物内にあり、小さな部屋に女性技能実習生18人が詰め込まれた。かろうじてエアコンはあったものの、テレビもない部屋で、多数の技能実習生との共同生活だった。寮費は1人当たり月に2万円だった。ほかに水道光熱費として月1万円徴収された。18人で使った部屋に対し、18人合わせて家賃だけで36万円とられていたことになる。一方、これだけ長時間働いても、給与から家賃などが引かれた後、彼女たち技能実習生が受け取るのは月に8~9万円だけだった。会社は技能実習生の就労時間をきちんと管理しないばかりか、残業代を払わず、いくら働いても受け取る金額はこの程度にとどまっていた。
ベトナム人女性が直面した債務労働と技能実習制度のひずみ=コロナ以前から彼女が経験していた搾取と差別
ただの安価な労働力としか思っていない受入側
このようなケースが起こる原因には、政府による制度設計が十分ではない点も大きいですが、
実習生を受け入れる日本企業の理解も十分ではない点が挙げられます。
上記のケースはまさに人権を無視したハラスメントであり、それを日本語も十分ではない、多額の借金を背負わされてきている、弱い立場の人間に行う大変卑劣な行為です。
もちろん受入企業が全てこのようにひどい企業ではないと思いますが、制度の改正と同時に、受け入れる側の教育や研修の徹底が今後の課題と言えるでしょう。
さいごに
いかがだったでしょうか?
日本の現状、そして未来を考えると、海外への労働力依存はもはや避けられません。
しかし、現制度下において受入側と送出側の間には健全な関係が築かれていません。
本来どちらも困っていて、どちらも得をする制度のはずです。
その実現のためには、海外から日本にやって来る人に対する私たちの認識や考え方をアップデートする必要があるようです。