その国の文化を知る方法として、アート(芸術)に触れることは、様々な発見があり、観光地を訪れる以上に記憶に残ることがあります。
それでは、サモア、または大洋州の地域でアートと言えば、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?
この質問をすると一番多く返ってくる回答は「タトゥー」です。
しかし、もしかするとこのタトゥーの起源になっているかもしれない芸術があることを知っていますか?
それが「シアポ siapo」です。
シアポ(siapo)とは、大洋州(オセアニア)地域で伝統的に作られている、木の樹皮でできた布のことで、タパ(tapa)とも呼ばれます。
この記事では、サモアの伝統工芸シアポについてお話していきたいと思います。
サモアの文化についてもっと知りたい方はこちらの記事も合わせてご覧ください。
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「タパ」という名前で知られている
シアポ(siapo)とはサモア語で、木の樹皮から作られた布のことを表す言葉です。
一般的にはタパ(tapa)と呼ばれることが多いようですが、タパはタヒチ語です。
(サモアでもタパと呼ぶことが多いです)
大洋州で伝統的に作られてきた
このシアポは、サモアだけでなく大洋州地域で広く作られてきた伝統工芸です。
そのため、フィジー語ではマシ(masi)、ハワイ語でカパ(kapa)、トンガ語でンガトゥ(ngatu)と、それぞれの国の言語で呼び名は異なりますが、全て同じものを指す言葉です。
しかし、文明の発達とともにシアポは急速に減少し、サモアでも伝統的な方法で作れる職人は一握りになってしまいました。
どの国でもほとんど消滅に近い状態に瀕しており、その保護が叫ばれています。
紀元前という説も
このシアポが作られた時代ははっきりとわかっていません。
というのも、シアポはすべて自然のものからできていて、保存が非常に難しいためです。
ペルーで発見されたタパの断片はおよそ紀元前4000年前のものという情報もあり、とにかくかなり古いです。
デザインが幾何学模様という共通点があるところから推測すると、シアポのデザインがタトゥーの原型とも言えるかも知れません。
シアポは何に使われるか
次にシアポの用途についてお話していきます。
昔は人々の衣服として
シアポは、伝統的には人々の衣服を作る材料(布)として使われていました。
しかし西洋文化の伝来により、人々の衣服は西洋風の綿でできた洋服に取って代わられたため、現在は衣服としては用いられていません。
現在は贈答品や儀式の道具として
近年では、特別な行事や伝統的な儀式の際のみで使われることがほとんどです。
例えば村の儀式の際に女性が着用する伝統衣装として、
または、結婚式のお祝いの品として、
さらには、葬儀の際に故人を包む神聖な布としても使われています。
また日常生活においては、ベッドカバーや部屋の仕切り、フロアマット、単なる観賞用として部屋の装飾品に使われることもあるようです。
シアポの伝統的な作り方
ここからは、シアポの制作工程に迫っていきます。
使用するものはすべて自然由来
シアポの伝統的な作り方の特徴は、材料から工具まで全て自然に取れるものを使って作られる点です。
まず、シアポの材料には、「カジノキ(クワ科)という木の樹皮」が使われます。
その他にも、制作過程で使われるハンマーも木製ですし、貝殻なども使用します。
最後の絵付けの工程でも、使用する染料は自然のものから抽出します。
植物を紙状のキャンバスへと変える
このカジノキの幹(茎)の直径が5cm程度になったものを収穫し、樹皮を剥ぎ取り、外側の樹皮は取り除きます。
柔らかい内側の樹皮だけを、きれいな水に浸し、さらに柔らかくします。
柔らかくなった樹皮を取り出したら、「貝殻」を用いて、擦るようにして樹皮に染み込んだ水分を取り出していきます。
よく水分を抜き取ったら、「木製のハンマー」で叩き、樹皮を広げていきます。
この作業がかなりの重労働です。一度叩くことで樹皮の広がる長さはたった数mmです。
これが、体を包めるくらいの大きさになるまでひたすら叩き続けます。
シアポが十分な大きさまで広がり、紙のような薄さになったところで、乾燥の工程に入ります。
完全に乾燥するまでにまた数時間かかることになります。
地球の色をアートに
乾燥が終わると、次は絵付けの作業になります。
絵付けをするための染料や工具も全て自然のものを使います。
染料のベースとなるのが、アカギという木の樹皮から抽出される成分です。
これに、ククイと呼ばれる木を燃やしてできるススや、
ペニノキと呼ばれる口紅などにも使われる赤い染料を混ぜて使われます。
これらの染料を使って、絵付けをしていくことになります。
吸い込まれるような幾何学模様
絵付けの方法には、「エレイ(elei)」と「ママヌ(mamanu)」の2種類あります。
エレイは、別の素材にデザインをあらかじめ彫刻しておき、それに染料を塗って、版画のように模様をつける方法です。
版画の素材は、伝統的には植物の葉などが使用されていましたが、壊れやすいという欠点があり、近年は木の板に彫刻されたものが使われています。
一方ママヌは、一つ一つフリーハンドで模様を描いていきます。
エレイと違って大量生産はできませんが、2つとして同じものが出来ないため、もちろん芸術的な価値は高くなります。
シアポのデザインの特徴は幾何学模様!
見ているだけ吸い込まれていきます。(理系の皆さんはとくにこの美しさに共感してもらえるはず!)
現地でシアポに触れる
サモアに来ればシアポは簡単に見つけることができます。
お土産屋さんで購入可能
シアポはサモアのお土産屋さんやマーケットで簡単に購入することが出来ます。
ランチョンマットくらいのサイズであれば1000円前後で購入が可能です。
ただし、このように安価なものはエレイで作られたものがほとんどで、完成度もイマイチなものが多いです。
本当に良質なシアポや、ママヌで作られたシアポを手に入れたければ、サバイイ島に行く必要があります。
シアポを作っている様子も見学できる
サバイイ島のパラウリ村というところには、現在では非常に貴重な存在となった伝統的な方法でシアポを作る職人がいます。
実は、シアポ職人は代々女性の家族に引き継がれるそうで、この方の家族も代々シアポ職人だったそうです。
彼女のように伝統文化を継承する人が年々減少しているサモアでは、観光局がサポートをし、その文化の保存に乗り出しています。
その一つが、外国人観光客向けに行っているシアポ見学です。
ファアムリさんの家でもシアポを作る過程を見学できるようになっており、
上手くタイミングが合えば、サモアのレジェンドであるファアムリさんのデモンストレーションを実際に見ることができるかもしれません。
現在では、彼女の娘、孫娘も一緒にシアポを作っており、脈々と伝統は引き継がれています。
ファアムリさんの記事がSamoa Observerというサモアの新聞に載っていますので、よろしければこちらもご覧ください。
Samoa Observer の記事(←クリック)はこちらからどうぞ。
さいごに
いかがだったでしょうか?
今回は、サモアの伝統工芸「シアポ」についてお話しました。
アフリカ柄もいいですが、「いつか絶対このサモアのシアポ柄ブームが来る!」と思って、くじけず紹介していきます。
今回紹介したシアポ見学ができるサバイイ島の場所にも取材に行く予定ですので、気長にお待ちくださいませ。