この記事では、次のような悩み、疑問にお答えします。
- 太平洋の島国って平和そうで、どんな問題があるのか分からない
- 小さな島国がどのように経済活動をしているか知りたい
- MIRAB経済とは何かを解説してほしい
こんにちは、さもあき(@gakisan2)です。
突然ですが、皆さんが持つ太平洋島嶼国(太平洋の島国)のイメージってどんなものですか?
「海」「ヤシの木」「暑い」「のんびり」「平和」「人がいい」…
このようにポジティブなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
しかしその多くは、いわゆる開発途上国と呼ばれる国々です。
とくに経済は、島国であることが大きく影響しており、その経済構造は「MIRAB(ミラブ)経済」と呼ばれています。
このMIRAB経済の仕組みを知ることは、小さな島国が経済活動を行う上で、どのような困難を抱えているのかを理解することにつながります。
私は以前、太平洋島嶼国の一つ、サモアという国で青年海外協力隊として活動し、現在もNGOルマナイサモアという団体でサモアの支援を行っています。
今回は、これらの経験をもとに、MIRAB経済について詳しく解説していきます。
この記事では、以下について解説します。
- MIRAB経済の定義
- MIRAB経済の現状
- MIRAB経済のメリット・デメリット
MIRAB経済とは何か
まずは、MIRAB経済の定義とその背景について解説します。
MIRAB経済の定義
MIRAB経済の「MIRAB」とは、次の4つの単語の頭文字をとった言葉です。
- Migration(移民)
- Remittance(送金)
- Aid(援助)
- Bureaucracy(官僚)
そして、それぞれの言葉が太平洋島嶼国の経済の特徴を表しています。
MIRAB経済の背景
そもそも島国は、領土が小さく、多くの小さな島で構成されている国が多く、活用できる資源には限りがあります。
そのため、自分たち力だけで経済を発展させることが非常に難しいと言えます。
また、産業が発達しにくいということは、新たな雇用も生まれにくいということにつながります。
そのため、太平洋島嶼国の人々は雇用機会を求めて、近隣の先進国に移民(Migration)として出稼ぎにいくようになります。
移民として海外に流出した人々は、そこで働いて稼いだお金を、島に残る家族のための仕送りとして送金(Remittance)します。
この送金によって、島の人々は何とか日々の生活を暮らしているのです。
さらには、産業が乏しいことは国の予算にも影響を与え、その結果、様々なドナーの援助(Aid)に依存せざるを得ない状態が長く続いています。
産業が乏しく雇用が少ない国内で唯一安定した職業は、公務員(Bureaucracy)くらいなのです。
\MIRAB経済の背景について、さらに詳しく知りたい方はこちらもどうぞ!/
なぜ南の島の楽園が援助を必要としているのか【大洋州の島嶼国が抱える脆弱性】
MIRAB経済の現状
続いて、MIRAB経済を構成する移民、送金、援助、公務員、それぞれの現状について詳しく解説します。
移民(Migration) について
移民については、他国に出ていく「流出」と、自国に入ってくる「流入」の、2つの視点から見ていきます。
まず、人口流出が特に大きな割合で起こっている国には、ミクロネシアやサモア、トンガなどがあります。
ミクロネシアは、米国との自由連合協定により、米国への移住や労働が認められているため、多くの人々が米国へと流出します。
また、サモアやトンガは、ニュージーランドやオーストラリアへの流出が多い国です。
ここでサモアを例に見てみましょう。
2018年に世界銀行が発表した統計データ(Bilateral Migration Matrix 2017)によると、
2017年にサモアから他国への移民の合計人数 134,757人
2017年のサモアの総人口 195,357人
サモアからの移民の数は、サモア国内の人口の約69%にもなります。
逆に、自国への移民の流入が起きているのが、パラオです。
観光産業が盛んなパラオは、人口約2万人に対して年間約12万人もの観光客を受け入れています。
そのため、国内だけで労働力を賄うことが難しく雇用のニーズがあり、ある程度の賃金がもらえることもあり、多くの出稼ぎ労働者が移民としてパラオに入っています。
送金(Remittance)について
雇用を求めて海を渡った多くの人々は、そこで稼いだお金を仕送り(送金)することで島に残る家族を支えています。
その金額は、国の経済規模を示すGDP(国際総生産)と比較することで、いかに国の経済にとって大きなものかが分かります。
ここで再び、移民の流出が多いサモアを例に見てみましょう。
2017年のサモアへの送金総額 約143百万USドル
2017年のサモアのGDP 約840百万USドル
サモアへの送金額は、GDPの約17%。これはサモアの経済の17%が、海外に住む家族からの仕送りで成り立っていることを意味します。(世界銀行,2018)
ちなみに、日本の経済を支える産業の一つである「自動車製造品出荷額」がGDP比で約11%(2018年実績,日本自動車工業会HPより)
いかにサモアにおける送金が占める割合が大きいかが実感できるのではないでしょうか。
援助(Aid)について
海外からの援助を多く受けている点も、MIRAB国家の大きな特徴の一つです。
JICAが2015年にまとめた報告書(JICA, 2015)によると、政府予算に対する海外援助額の割合は以下の通りでした。
バヌアツ | 45.24% |
ソロモン諸島 | 81.42% |
サモア | 38.55% |
トンガ | 83.33% |
キリバス | 59.39% |
ツバル | 184.64% |
ミクロネシア | 131.25% |
マーシャル | 78.60% |
フィジー | 6.31% |
パラオ | 29.28% |
このように、多くの国が海外からの援助に依存していることが分かります。
ただし、フィジーとパラオに関しては、観光業を中心とした産業が発達したこともあり、例外と言えます。
公務員(Bureaucracy)について
産業が発達しないことで、国内の雇用のほとんどは省庁の職員や学校の先生などの公務員に限定されています。
公務員の仕事は、確かに国の基盤作りや発展のために重要な役割を担っている一方で、決してお金を生み出す仕事ではありません。
むしろ、給与などの支出など、お金だけで勘定すればマイナスかもしれません(もちろん必要経費ですが)
それでも国を動かすために必要であるため、上記のような援助の他、高い税金を設定するなど何とかやりくりをしているのです。
MIRAB経済のメリット・デメリット
次に、MIRAB経済のメリット・デメリットについて、これまでサモアに携わってきた経験からお話ししたいと思います。
人材の流出か、人材の育成か
多くの国民が出稼ぎや進学によって他国へと流出することは、人材の流出です。
特に、海外に行く人材の多くは学力や語学力に長けている場合が多く、優秀な人材の流出という点でデメリットと捉えることができます。
ただ、国内に雇用が十分にない以上、海外に職を求めることはある意味で理にかなっていますし、これで経済が回っているのも事実です。
一方、海外で知識や経験を得て帰国した人々が新たな事業を始めたり、様々なイノベーションをもたらす可能性があるというメリットもあります。
彼らがこれからの新たな産業を生み出し、経済を促進してくれる役割を担っていくことが期待されているため、このあたりが島国のジレンマと言えるでしょう。
観光産業の危うさ
太平洋島嶼国では、観光業が主な産業になっていることがほとんどです。
観光業は、たしかに海やビーチなど、太平洋島嶼国にとって数少ない資源である「自然」が活かせる産業です。
しかし、先進国と呼ばれる近隣の国からの観光客をターゲットにする以上、アクセスの良し悪しは大きく影響します。
また、島嶼国のセールスポイントと言えば、綺麗な海やビーチなど、似通っているため、どうしても経済力がある国が有利になってしまいます。
同じ綺麗な海を満喫できるなら、直行便がある国や、ホテルなどのサービスが充実している方を選ぶ旅行客が多いでしょうからね。
さらに、2020年に流行した新型感染症など、世界の情勢や景気に大きく左右されやすいというデメリットが観光産業にはあります。
貨幣経済による文化の変化
もともと太平洋島嶼国は経済や産業が発展してこなかったこともあり、つい100年前まではモノやお金を必要とする暮らしではありませんでした。
しかし、戦後の独立をきっかけに資本主義の経済へと飲み込まれていき、古来から続く文化にすらも貨幣文化は浸透していきました。
サモアを例に挙げると、古来から村の結びつきが強く、村の中で冠婚葬祭などがあると家畜や工芸品などの贈り物をする習慣がありました。
しかし近年では、贈り物の代わりに金銭が交換されるようになり、サモアの人々は冠婚葬祭があるたびに莫大な出費を求められるようになりました。
そのため、お金が必要になると親せきや友人、同僚までにもお金を借りることが日常茶飯事で、給料日の日になると、借りたお金を返しあう光景をよく目にしました。
つまり、裕福な生活をすることが目的ではなくとも、サモアの人々はコミュニティで生きるためにお金が必要になってしまったのです。
海外へ出稼ぎに行き、送金してくれる人が一人でも多く家族にいることは、今や彼らにとって大変重要なことなのです。
さいごに
MIRAB経済について理解できましたか?
MIRAB経済は、時にその依存性がリスクとして問題視されることがあります。
たしかに海外の雇用や海外送金、援助に依存することは経済として決して健全ではなく、自立できれば一番良いのかもしれません。
一方で、島国というハンデを持った彼らが、自分たちだけで産業を発展させるには、まだまだ険しい道のりと言えるでしょう。
MIRAB経済は、ある意味で彼らが生き延びるために導き出した一つの答えだったのかもしれません。
しかし、感染症の流行などによる世界経済の急激な変化に対応するためには、MIRAB経済に代わる新しい答えが必要になっています。
その答えは、決して彼らが自分たちで見つければよいのではなく、世界が一緒になって試行錯誤し、見つけていくことが重要ではないでしょうか。